ゴルフと腰痛:なぜゴルファーは腰を痛めやすいのか

科学的根拠(エビデンス)から考える“痛みの原因と改善法”

ゴルフは生涯スポーツとして人気が高い一方で、最も多いケガが「腰痛」です。
実際、研究ではアマチュアゴルファーの約30〜35%が腰痛を経験していることが報告されています(McHardy et al., 2007)。

では、なぜゴルファーは腰を痛めやすいのでしょうか?
その理由は、単純な“スイングのしすぎ”ではなく、身体の使い方・可動域の偏り・筋の協調性といった運動学的な要因が大きく関わっています。

ここでは、エビデンスを基に「ゴルフと腰痛のつながり」をわかりやすく解説し、さらに痛みを予防するトレーニングの方向性もまとめます。


1. ゴルフスイングは“非対称性”の運動である

研究によれば、ゴルフは非常に左右差が大きい競技です。
多くのプレーヤーは右打ちで、スイング動作は以下のような偏りを生みます。

  • バックスイングでは右股関節・右体幹が優位
  • ダウンスイング〜フォローでは左股関節と左体幹が優位
  • 特に回旋(ひねり)力が腰椎に集中しやすい

腰椎は回旋に弱い構造であり、本来は股関節・胸椎が回旋を担うべきです。
しかし、これらの可動域が不足すると、代わりに腰椎が過剰にひねられ、痛みの原因になります。

これは「Regional Interdependence(部位間依存性)」という有名な概念で、
どこかの関節が動かないと、別の関節が過剰に動いて負担を受けるというメカニズムです。


2. 腰痛ゴルファーに共通する身体的特徴

研究では、腰痛を持つゴルファーに下記の特徴があると示されています。

(1) 股関節の内旋・外旋の可動域制限

  • Lindsay & Horton (2002):腰痛ゴルファーは股関節の回旋可動域が低い
  • 特に左股関節の内旋制限がスイング後半の負担を増やす

(2) 胸椎(胸の背骨)の回旋不足

胸椎は本来「回旋のメイン担当」。
しかし現代人はデスクワーク・猫背姿勢で硬くなりやすい。

→ 結果、腰椎が本来の役割以上にひねられる

(3) 体幹筋の協調性の低下

単に腹筋が弱いのではなく、

  • 深層腹筋(TA)
  • 多裂筋
  • 横隔膜
  • 骨盤底筋

これらの“コアユニット”の機能低下が腰椎の安定性を下げる。

特にスイングの高速回旋においては、**「強さよりタイミング」**が重要であることが研究で明らかになっています。


3. ゴルフ特有の腰痛:代表的な発症パターン

① フォロー側の「左腰」の詰まりや痛み

原因:左股関節の内旋制限、胸椎回旋不足
フォローで身体が回り切らず、左腰が突っ張るパターン

② バックスイングでの「右腰」の張り

原因:右股関節外旋の不十分、右殿筋の機能低下
捻る代償が腰に入る

③ ラウンド後半に出る“疲労性の痛み”

原因:コアの協調性の低下、姿勢保持筋の耐久力不足


4. 腰痛を防ぐために必要な3つのポイント

① 股関節の左右差改善

  • 左右ともに内旋・外旋の可動域確保
  • 特に左股関節内旋の改善は重要(フォロー側負担の減少)

エビデンス:股関節可動域の不足が腰痛の予測因子になる(Lindsay & Horton, 2002)

② 胸椎の回旋可動域を高める

胸椎が動くと、腰椎の回旋ストレスが大幅に減る。
ヨガ・ピラティスの「胸椎回旋系エクササイズ」は特に有効。

③ 体幹の“協調性”を高める

筋力だけでなく、

  • 呼吸(横隔膜)
  • 深層腹筋
  • 股関節周囲の筋
  • 胸郭の動き

これらが連動することが腰痛予防に直結する。

エビデンス:
体幹筋のタイミング改善が腰痛軽減に効果(Hodges & Richardson, 1996)


5. ゴルフピラティスの有効性

ピラティスは、

  • コアの協調性
  • 胸郭と胸椎の可動性
  • 股関節の動きの改善
  • 呼吸と姿勢の再教育

に優れ、ゴルファーの腰痛改善に非常に相性が良い。

研究でも、ピラティスは慢性腰痛の改善に有効であることが示されており、
特に姿勢制御・体幹安定の向上に寄与することが報告されています(C. Wells et al., 2014)。

また、スイング動作の安定性向上や、再発予防にも効果的です。


6. ゴルファーが今日からできる実践ポイント

1. 胸椎の回旋ストレッチを1日3分

椅子に座って肩に手を置き、左右にゆっくり回すだけでも効果的。

2. 股関節内旋を改善するストレッチ

特にフォローサイド(左)の内旋。

3. 呼吸(横隔膜)を使った体幹安定トレーニング

リブケイジが柔らかくなると腰の負担が減る。

4. ラウンド前に“腰ではなく股関節”を温める

股関節周囲の筋活性(殿筋群)を意識。

5. スイング習得では「可動域 → 安定性 → パワー」の順で

いきなり力を入れると腰痛リスクが上がる。


7. まとめ

ゴルフの腰痛は「年齢」ではなく、

  • 股関節の左右差
  • 胸椎の回旋不足
  • コアユニットの協調性低下
  • スイングの非対称性

これらの“身体の使い方の問題”によって引き起こされます。

逆にいえば、
正しいトレーニングで改善できる痛みであり、パフォーマンスも同時に向上する領域です。