ゴルフと膝痛のメカニズム

身体構造・動作・研究データから読み解く「痛みの本当の原因」

はじめに

ゴルフは「膝に優しいスポーツ」というイメージがありますが、実際にはラウンド後に膝の内側痛・重だるさ・階段や坂での違和感を訴える方が少なくありません。
痛みの多くは膝そのものの問題ではなく、股関節・足部・胸郭・体幹の使い方のクセが“代償”として膝に現れる現象です。

本記事では、国内外の研究エビデンスと、当スタジオで実際に観察される動作特徴を組み合わせながら、
「なぜゴルフで膝が痛くなるのか?」
「どこを整えると根本改善につながるのか?」

を分かりやすく解説します。


1. 研究で分かっている「ゴルフスイングと膝関節のストレス」

ゴルフスイングは、見た目以上に“ねじれ”と“剪断力(ずれの力)”を発生させる動作です。
特に右打ちゴルファーでは、左右の膝に異なる負荷がかかることがわかっています。


1-1. 右膝(右打ち)は外反ストレスを受けやすい

Cole et al. (2018) の研究では、
トップ〜切り返しで右膝に強い外反(内側へ押し込まれる)モーメントが生じる
ことが示されています。

さらに、
右股関節の内旋可動域が小さいほど、右膝への負担が増大する
というデータもあり、膝痛の背景には“股関節の硬さ”が強く関与します。

当スタジオでの観察とも一致

実際には以下の特徴が揃うと右膝内側痛が起こりやすい傾向があります。

  • 右股関節の内旋不足
  • 足部の過回内(アーチの崩れ)
  • 胸郭の左回旋制限

1-2. 左膝には「回旋ストレス」が強くかかる

インパクト直前〜フォローでは、
左膝が外側へねじられる“外旋ストレス”がピークになります。

McHardy et al. (2007) の研究でも、
左膝外旋ストレスはインパクト時に最も高まる
と報告されており、

  • 股関節外旋制限
  • 胸郭の回旋不足
  • 体幹の側方偏位

があると膝がねじれ逃げできず、内側側副靭帯(MCL)や半月板に痛みが出やすくなります。


1-3. ラウンド時の歩行負荷も大きい

18ホール歩く距離は12〜14km
膝には体重の2〜3倍の荷重が数千回かかります。

Kutzner et al. (2010) の歩行研究では、

  • 前傾歩行
  • 片側過多の荷重癖
  • アーチ低下(過回内)

があるほど膝内側の関節圧が増えることが報告されています。

つまりスイングだけでなく、歩き方・姿勢の癖が膝痛と密接に関係しているのです。


2. 膝に痛みが出る“本当の理由”

ゴルフに限らず、膝痛は「膝が悪い」のではなく、
**“身体の連鎖のどこかの機能不全が膝に現れる”**という構造で起こります。


2-1. 足部の不安定性=膝のねじれに直結

足のアーチが潰れる過回内(pronation)は、
脛骨内旋 → 膝内側の圧迫ストレス
を引き起こします。

Nigg et al. の研究では、過回内が膝内側負荷を高めることが明確に示されています。

スイングは強い回旋を伴うため、足部が不安定だと膝に代償が集中します。


2-2. 股関節の可動域制限が膝への代償を増やす

特に重要なのは以下の2つ。

  • 右股関節の内旋
  • 左股関節の外旋

これらが不足すると、スイング中の回旋を膝が肩代わりするため痛みのリスクが上がります。

Evans et al. (2017) の研究では、
股関節内旋可動域が低いゴルファーほど膝痛発生率が高い
ことが相関として示されました。


2-3. 胸郭の回旋不足は膝に“回旋代償”を発生させる

胸椎・肋骨が硬く上半身が回らない場合、
その分を膝が回旋代償として引き受けます。

当スタジオでも、

  • 右胸郭の硬さ → 右膝内側痛
  • 左胸郭の硬さ → 左膝外側痛(ねじれ代償)
    というパターンは非常に多く見られます。

2-4. PMRF(脳幹:橋延髄網様体)の機能低下も関係

PMRFは

  • 姿勢反射
  • 歩行リズム
  • 体幹の抗重力反応
    に関わるシステムです。

ここが機能低下すると、
股関節外旋筋・体幹の反射的安定が弱くなり、膝がブレやすくなる
ことが臨床的に確認されています。

ゴルフのように“歩行+回旋”を繰り返すスポーツでは特に影響が大きい領域です。


3. 膝痛ゴルファーがまず改善すべき4本柱


3-1. 足部の安定化(内在筋・アーチコントロール)

Mulligan et al. (2011) の研究では、
足部安定化トレーニングにより膝内側の負荷が軽減する
ことが示されており、ゴルファーにも極めて有効です。

  • 三点支持
  • 中足部の適切な張力
  • かかとのニュートラル

3-2. 股関節の回旋可動域(内旋・外旋)の改善

股関節で回旋できるようになると膝のねじれ代償が減ります。

  • 右内旋(トップ〜切り返しで必須)
  • 左外旋(インパクト〜フォローで必要)

スイングの安定性と方向性にも直結します。


3-3. 胸郭の回旋と呼吸の改善

胸郭の動きが整うと、
肩・体幹・股関節・膝までの動作連鎖がスムーズになります。

  • 肋骨の広がり
  • 胸椎回旋
  • 横隔膜の可動性

これらはスイングの再現性向上にも寄与します。


3-4. PMRFを整えるリズム運動

当スタジオでは、
歩行・呼吸・視線の安定を組み合わせた
反射統合アプローチを活用しています。

  • リズム歩行
  • 呼吸と回旋の同調
  • 頭部の安定化を伴う動作

これらは膝の“ブレ”を根本から減らすため非常に有効です。


4. 膝痛が改善するとスイングはどう変わるか

① 回転力が増え飛距離アップ

股関節と胸郭が連動し、効率的に力が伝わる。

② スイング軌道が安定しミスショットが減る

膝のブレがなくなりフェースコントロールが向上。

③ ラウンド後の疲労が激減

歩行効率が高まり、膝の重だるさが減少。

④ “継続してラウンドできる体”になる

ケガの予防とパフォーマンスの両立が可能。


まとめ

ゴルフにおける膝痛は、研究でも現場でも、次の点が共通しています。

  • 右膝は外反ストレス、左膝は回旋ストレスが高い
  • 足部・股関節・胸郭・体幹の機能不全が膝に代償として現れる
  • 膝痛は膝単体の問題ではない
  • PMRFの安定は“歩行×回旋”を繰り返すゴルフに不可欠
  • 統合的アプローチが最も効果的

当スタジオでは、
**「足部 × 股関節 × 胸郭 × 呼吸 × PMRF」**を統合した運動指導により、
膝の痛みを根本から改善し、同時にスイングのパフォーマンス向上にもつながるサポートを行っています。