眼筋(がんきん)の働きと身体への影響 〜視線を支える6本の筋肉の秘密〜
私たちは、1日におよそ10万回以上、目を動かしているといわれます。
スマートフォンやパソコンの使用、読書、運転など、現代人の生活は常に「眼球運動」とともにあります。
そしてその動きを支えているのが、眼球のまわりにある6本の筋肉、「外眼筋(がいがんきん)」です。
この6本の筋肉は、単に目を動かすだけでなく、姿勢、バランス、体幹の安定にも深く関係しています。
ここでは、それぞれの筋肉の役割と、体への影響についてわかりやすく説明します。
外眼筋の6本とそれぞれの働き
外眼筋とは、眼球の外側に付着している6本の筋肉のことをいいます。
それぞれが連携し、目の位置を正確にコントロールすることで、私たちは滑らかに周囲を見渡すことができます。
上直筋(じょうちょくきん)は、目を上に動かす筋肉です。視線を上げるときに働き、わずかに内回し(内側への回旋)も行います。
下直筋(かちょくきん)は、目を下に動かす筋肉です。視線を下げるときに働き、わずかに外回し(外側への回旋)も行います。
内直筋(ないちょくきん)は、目を内側、つまり鼻の方向に動かす筋肉です。6本の中で最も厚く強く、眼球を内側へ引き寄せる力が最も強い筋肉です。
外直筋(がいちょくきん)は、目を外側、つまり耳の方向に動かす筋肉です。内直筋とペアになって、左右方向の動きをつくります。
上斜筋(じょうしゃきん)は、目を内回ししながら下方へ向ける働きをします。頭を傾けても目が傾かないように調整する働きがあり、視線の水平を保つ重要な役割を果たします。
下斜筋(かしゃきん)は、目を外回ししながら上方へ向ける働きをします。上斜筋とバランスをとりながら、視線を安定させるために働きます。
視軸と眼窩軸の関係
目の筋肉は、ただまっすぐ上下左右についているわけではありません。
眼球には「視軸(しじく)」と「眼窩軸(がんかじく)」という2つの軸があり、この2本は約23度の角度で交わっています。
たとえば上直筋はこの23度の角度に沿って付着しており、その結果、単純な上下運動だけでなく、内回しや外回しといった回旋運動も同時に行われます。
つまり、私たちの目の動きはとても立体的で、複雑なバランスの上に成り立っているのです。
第一運動と第二運動
眼球を動かす動作には、「第一運動」と「第二運動」という2つの要素があります。
第一運動は主な動き、つまり上下や左右といった基本的な運動です。
第二運動は補助的な動きで、内回し・外回しなどの微妙な調整を行います。
たとえば上直筋は第一運動として上に動かす働きがありますが、第二運動としてわずかに内回しの動きも同時に行っています。
このように複数の筋肉が重なり合って働くことで、私たちはどんな姿勢でもスムーズに視線を動かせるようになっています。
単眼運動と両眼運動
目の動きには、片方だけを動かす「単眼運動」と、両方の目を同時に動かす「両眼運動」があります。
単眼運動は、片方の目だけが動く動作で、基本的な視線の方向を変えるために使われます。
一方で両眼運動には、2つのパターンがあります。
ひとつは「向き運動」と呼ばれるもので、両目が同じ方向へ動く運動(右を向く・上を見るなど)です。
もうひとつは「引き運動」と呼ばれ、両目が逆方向に動く運動です。
近くを見るときは「輻輳(ふくそう)」といって両目が内側に寄ります。
逆に、遠くを見るときは「開散(かいさん)」といって両目が外側に開きます。
この2つの動きのバランスが取れていることで、私たちは立体的にものを見ることができます。
姿勢と眼筋の関係
眼筋のバランスが崩れると、目の動きだけでなく姿勢にも影響が出ることがあります。
たとえば、左右の目の動きがズレていたり、ある方向に視線を動かしにくかったりすると、脳が姿勢を補正しようとして首や背中、腰の筋肉まで余分に働かせてしまいます。
結果として、肩こり、首の張り、腰痛、バランス感覚の低下などにつながることもあります。
つまり、眼筋は「見るための筋肉」であると同時に、「姿勢を支える筋肉」でもあるのです。
眼筋トレーニングの重要性
眼筋はトレーニングで改善することができます。
視覚トレーニング(ビジョントレーニング)や神経トレーニングを通して、目と体幹の連動を整えることで、姿勢や集中力、パフォーマンスの向上が期待できます。
特にゴルフ、野球、テニス、ピラティスなど、空間認知と身体の連動が重要なスポーツでは、眼筋の機能改善が非常に効果的です。
まとめ
目を動かす6本の外眼筋は、私たちの視線だけでなく、姿勢、体幹、バランスの安定にも関わっています。
これらの筋肉の働きを整えることは、疲れ目や肩こり、姿勢の乱れを防ぎ、健康な身体づくりの基礎になります。
「目を整えること」は、「全身を整えること」。
日々の生活の中で、目の使い方を少し意識するだけでも、体のバランスは大きく変わります。