高齢者が「旅行」と「ゴルフ」を生涯続けるために

鍵になるのは「脳機能」と「フィジカル」の両方だった

「いつまでも自分の足で旅行に行きたい」
「80歳になってもゴルフ仲間とラウンドしたい」

こうした願いを叶えるために、多くの人は「筋トレをしよう」「歩こう」と考えます。
もちろんそれはとても大切ですが、実はその“前提”として欠かせないのが 脳の機能 です。

本記事では、

  • なぜ「脳機能」と「フィジカル」がセットで大事なのか
  • どんな力が落ちると、旅行やゴルフを続けられなくなるのか
  • どんなトレーニングをすれば「生涯現役」に近づけるのか

を、最新の研究も交えながら分かりやすく解説します。


1. 「健康寿命」を決めるのは“筋力だけ”ではない

日本では、平均寿命と「健康寿命(介護を必要とせず自立して生活できる期間)」の間に、約10年前後のギャップがあると言われています。
この健康寿命を縮める大きな要因が、

  • 転倒・骨折
  • 移動能力の低下(歩くのがつらい・怖い)
  • 認知機能の低下(判断力・注意力の低下)

です。

高齢者を対象とした長期研究では、

  • 筋力や歩行速度が遅い人ほど、将来の要介護リスクが高いこと
  • さらに「注意力・記憶力などの認知機能」が低い人も、転倒・要介護リスクが増えること

が多数報告されています。

つまり、
「筋力」だけでなく「脳機能」も維持・向上させることが、健康寿命を伸ばすカギ になる、ということです。


2. 旅行とゴルフに必要な「脳の力」とは?

旅行やゴルフを楽しむとき、脳は休むことなく働いています。

① 注意力・状況判断力

  • 駅のホームや空港で、周囲の人・段差・電車の動きを一度に確認
  • ゴルフ場で、風向き・距離・ライ(ボールの置かれ方)を判断

注意機能が落ちると、

  • ちょっとした段差でつまずきやすい
  • 後ろから来る人や車に気づきづらい
  • ゴルフで集中が続かず、ショットが安定しない

といった問題につながります。

② バランスを保つための脳の働き

「ふらつかずに立つ・歩く」ためには、

  • 目からの情報
  • 足裏や関節からの感覚
  • 耳の奥(前庭系)からの平衡感覚

を、脳が統合してコントロールする必要があります。

研究では、高齢者の転倒リスクは「筋力」だけでなく、
こうした 感覚情報を統合する脳の働き(感覚統合) が落ちることでも高まるとされています。

③ 空間認知・位置感覚

  • 地図や案内表示を見て、自分の位置を把握する
  • ゴルフで、ターゲット方向や距離をイメージする

空間認知能力が低下すると、

  • 初めての場所への旅行に不安を感じる
  • コースのアップダウンや傾斜で足を取られやすくなる

といった問題が起こりやすくなります。

④ ワーキングメモリ(作業記憶)

  • 「何番ホーム」「何時の電車」といった情報を一時的に覚えておく
  • ゴルフのスコアを自分でつける
  • 次にやる動作(クラブ選択・狙う方向)を考えながら行動する

この力が弱まると、段取りを組むことが難しくなり、「遠出は面倒」「ゴルフはもういいかな」と活動量そのものが減ってしまう悪循環に入ります。


3. フィジカル面で必要な要素 – 「歩いて回れる体」と「スイングできる体」

次に、旅行・ゴルフを続けるために必要な身体機能を整理します。

① 下半身の筋力・パワー

  • 太もも前・お尻・ふくらはぎの筋力
  • 特に椅子からの立ち上がり、階段昇降の能力

高齢者では、「椅子からの立ち上がり速度」や「歩行速度」が遅いほど、将来の転倒・要介護のリスクが高いことが示されています。
旅行やゴルフは、「長時間立つ・歩く」ことが前提なので、下半身の筋力は必須です。

② 体幹の安定性(コアの機能)

  • 長時間歩いても腰が反りすぎない・丸まりすぎない
  • ゴルフの回旋動作でブレない軸を作る

体幹が不安定だと、

  • 腰痛・膝痛が出やすい
  • スイングが乱れ、余計な力みが増える

など、痛みとパフォーマンス低下の両方につながります。

③ 柔軟性・可動域

特に大切なのは、

  • 股関節(前後・回旋)
  • 胸椎(背骨のねじり)
  • 肩甲帯(肩・肩甲骨の動き)

です。可動域が不足したまま無理にスイングすると、腰や肘・肩に過度なストレスがかかり、
「ゴルフをするとどこかが必ず痛くなる」という状態を招きます。

④ 心肺機能(スタミナ)

  • 18ホールを歩き切る持久力
  • 旅行で1日1万歩近く歩いても、翌日まで疲労を引きずらない体力

中高齢者を対象とした研究では、定期的な有酸素運動(速歩き・軽いジョギングなど)が、

  • 心疾患・脳卒中のリスク低下
  • 認知症リスクの低下
  • 気分の安定・うつ症状の軽減

などに関連することが報告されています。
つまり、旅行やゴルフを楽しむこと自体も「有酸素運動」になり、健康投資といえるのです。


4. 最新研究が示す「脳と身体を一緒に鍛える」重要性

ここからは、少し研究の話も交えながら、どんなトレーニングが効果的かを解説します。

① デュアルタスクトレーニング(ながら運動)の効果

高齢者に対して、

  • 「歩きながら計算する」
  • 「ステップを踏みながらしりとりをする」

といった「二つの課題を同時に行うトレーニング(デュアルタスク)」を取り入れた研究では、

  • 歩行能力の改善
  • 転倒リスクの低下
  • 認知機能(注意・実行機能など)の改善

が報告されています。

これはまさに、旅行やゴルフの場面と似ています。
「歩きながら周りを見る」「スイングの準備をしながら距離を計算する」など、日常生活はすべてデュアルタスクだからです。

② レジスタンストレーニング(筋トレ)と認知機能

中高齢者を対象とした複数の研究で、

  • 週2〜3回の筋力トレーニングが、筋力や骨密度だけでなく、注意力・実行機能などの認知機能を改善する可能性

が示されています。

つまり、「脳トレ」と「筋トレ」は別物ではなく、
筋トレそのものが“脳のトレーニング”にもなり得る ということです。

③ ゴルフと認知機能の関係

ゴルフには、

  • 距離や風を読む戦略的思考
  • 繊細な手先のコントロール
  • バランスを保ちながらの全身運動

など、多くの認知機能・運動機能が統合されています。

高齢者のレクリエーションとしてゴルフを継続することは、

  • 有酸素運動としての効果
  • バランス能力・筋力の維持
  • 仲間との交流による社会的つながりの維持

といった面から、認知症予防・フレイル予防に寄与する可能性があると考えられています。


5. 実際に何をすればいいのか? – 実践のポイント

ここからは、具体的な実践のイメージをご紹介します。
(※痛みや疾患がある方は、必ず医師や専門家に相談しながら行ってください)

ステップ1:土台づくり(安全に動ける体)

  • 椅子からの立ち上がり練習(スクワットの基礎)
  • 壁やバーを持ちながらのかかと上げ
  • 仰向けでの骨盤・背骨の動き出し(ピラティスの基礎)

目的:
「立つ・歩く」のために必要な最低限の筋力と可動性を取り戻す段階。

ステップ2:脳と身体の協調トレーニング

  • 足踏みしながら「3の倍数で手を叩く」
  • 片足で立ちながら「今日食べたものを順番に言う」
  • 軽いキャッチボールをしながら、色や数を答える

目的:
脳の「注意」「記憶」「感覚統合」の機能を、身体の動きとセットで高めていく。

ステップ3:ゴルフ・旅行を想定した応用

  • ゴルフのアドレス姿勢で、体重の乗り方や足裏の感覚に意識を向ける練習
  • 上半身と下半身のねじれを分けて使うドリル
  • 室内での「旅行シミュレーションウォーク」(階段・方向転換・荷物を持つ動作を組み合わせる)

目的:
実際の場面に近い形で、脳と身体を一体として使う練習を行う。


6. まとめ:生涯「旅行」と「ゴルフ」を楽しむために

本記事でお伝えしたいポイントを整理すると、

  1. 健康寿命を伸ばすには、「筋力」だけでなく「脳機能」の維持・向上が不可欠
  2. 旅行・ゴルフには、注意力・バランス・空間認知・記憶など、多くの脳機能が関わっている
  3. 下半身筋力・体幹の安定・柔軟性・心肺機能が、実際に動き続けるための土台になる
  4. 「脳トレ+フィジカルトレーニング(デュアルタスク)」が、転倒予防・認知機能維持に効果的とする研究が増えている
  5. ゴルフは、身体だけでなく脳・心・人とのつながりを保つ「生涯スポーツ」として大きな価値がある

「もう歳だから」ではなく、
今からでも、脳と身体は鍛え直すことができます。

  • まだ一人で旅行に行きたい
  • まだまだスコア更新を狙いたい
  • 孫と一緒にコースを回りたい

そのための「投資」として、
脳機能とフィジカルを同時に鍛える習慣作りを、ぜひ今日から始めてみてください。