【12月の忘年会シーズン必読】
お酒が“痛みの感度”を上げる理由
― アルコールによる脳機能低下と痛み増幅のメカニズム ―
1. お酒を飲むと「痛みが楽に感じる」のは事実
まず事実として、適量〜中等量以上のアルコールには「鎮痛効果」があることが、実験研究のメタ解析で示されています。アルコール摂取により痛みの閾値が上がり、「同じ刺激でも痛みとして感じにくくなる」ことが確認されています。PubMed
ただし重要なのは、
- 鎮痛効果が出るのは、健康的な飲酒ガイドラインを超える程度の量が必要なこと
- 効果は一時的であり、時間とともに急速に「慣れ(急性耐性)」が生じることPMC
です。
つまり、
「飲んでいるときは楽 → だんだん効かなくなる → 量を増やす」
という流れが起こりやすく、その先に「脳の痛みシステムそのものが過敏になる」リスクがあります。
2. なぜその後に「痛みの感度」が上がってしまうのか
2-1. 脳と脊髄レベルでの「中枢性感作」
最近の研究では、アルコール使用障害(長期的な大量飲酒)と慢性疼痛の背景に、「中枢性感作」という共通のメカニズムがあることが指摘されています。Taylor & Francis Online
中枢性感作とは、
- 脳や脊髄の「痛みを処理する神経回路」が過敏になり
- 本来それほど強くない刺激でも「強い痛み」として感じてしまう状態
のことです。
アルコールは、
- 摂取中:一時的に痛みを抑える(鎮痛)
- 離脱・翌日以降:逆に「痛みが増幅された状態(痛覚過敏)」になりやすい
という「振れ幅」の大きい作用を持っています。慢性的な飲酒や飲んだりやめたりを繰り返すことで、この「痛みの増幅システム」が強化されていくと考えられています。精神医学オンライン+1
2-2. 神経炎症(ニューロインフラメーション)
アルコールは脳内の「ミクログリア」と呼ばれる免疫細胞を刺激し、炎症性サイトカイン(IL-1β, IL-6, TNF-αなど)の放出を促します。MDPI+1
その結果、
- 痛み信号を中継する神経が過敏になり
- 「何でも痛い」「触られるだけで嫌」といった状態(アロディニア・痛覚過敏)が起こりやすくなる
ことが動物実験やヒトの研究から示されています。Wiley Online Library+1
2-3. 末梢の神経障害(アルコール性ニューロパチー)
長期にわたる大量飲酒は、足・手の末梢神経を傷つけ、「しびれ」「灼けるような痛み」「感覚鈍麻」を起こすアルコール性ニューロパチーの原因になります。PMC
これは単に「感覚が鈍る」だけではなく、
- 正常な感覚入力が失われる
- 脳が「異常な痛み」として信号を解釈する
という二重の意味で、痛みシステムを乱します。
2-4. 睡眠の質低下 → 慢性痛リスクの増加
忘年会シーズンによくあるのが、
- 夜遅くまで飲む
- 睡眠時間が短くなる
- アルコールで睡眠の質も低下する
というパターンです。
大規模な疫学研究では、「睡眠の質が悪い人・睡眠時間が極端に短い人」は、慢性の筋骨格系疼痛(腰痛・肩こり・関節痛など)のリスクが高いことが示されています。Wiley Online Library+1
また、アルコール摂取と筋骨格系疼痛・睡眠障害の関係を調べた研究では、
- 飲酒量が多く、睡眠の質が悪い人ほど、痛みによる日常生活の支障が大きい
ことが報告されています。PMC
3. 忘年会シーズンに起こりやすい「痛みのストーリー」
上記のメカニズムを踏まえると、12月の典型的なパターンは次のようになります。
- 連日の飲み会で、アルコール量と就寝時間が増加
- 飲んでいるときは「肩も腰も楽」「ストレッチしなくても平気」
- 翌日以降
- 頭痛、首のこり、腰の重だるさが増える
- 階段の上り下りで膝がズキッとする
- 慢性的な腰痛・肩こりがいつもより強く感じる
- 「ストレスと痛みを紛らわせるためにまた飲む」
- 脳の痛みシステムが少しずつ過敏になり、年明けも痛みが残る
これは単なる「飲みすぎで体が重い」というレベルを超え、
脳機能(痛みをコントロールする仕組み)そのものが乱れているサインです。
4. お酒と「脳機能低下」が痛みに与える具体的な影響
4-1. 姿勢コントロールの低下
アルコールは、
- 小脳:バランス・協調運動
- 前頭葉:判断・抑制・姿勢調整
などに作用し、姿勢や動作のコントロール精度を落とします。
その結果、
- 酔っているとき:変な座り方・崩れた立ち方・同じ姿勢で長時間
- 翌日:筋肉・関節に一気に負担が集中
し、腰痛・肩こり・膝痛が悪化しやすくなります。Novus Health
4-2. 痛みの「ブレーキ」が効かなくなる
本来、脳には「痛みを抑制するシステム(下行性疼痛抑制系)」があります。
しかし、アルコールによる脳機能低下や神経炎症が進むと、
- 痛みのブレーキが弱まり
- 逆に「痛みを増幅する回路」が優位になる
と考えられています。Frontiers Publishing Partnerships+1
これが「以前より同じ動作で痛くなりやすい」「休んでも治りにくい」と感じる大きな要因です。
5. 忘年会シーズンの「痛み予防」のためにできること
ここからは、現実的にできる対策を整理します。
5-1. 「量」と「ペース」をコントロールする
- 飲み会のスタートから「ハイペースで飲まない」
- ビール・ハイボールの間に必ず「水」か「お茶」を挟む
- 週の中で「完全休肝日」を2日以上作る
先ほど触れたように、アルコールの鎮痛効果が出るのは、健康的なガイドラインを超える量が必要という報告があります。PubMed
「痛みを紛らわせるために飲む」ほど、脳の痛みシステムの悪循環にはまりやすくなります。
5-2. 睡眠時間と「質」を最優先する
- 終電ギリギリまで飲むのではなく、睡眠時間を確保できる時間で切り上げる
- 寝る直前の飲み直し・夜食を控える(睡眠の質を大きく落とします)
- どうしても遅くなった日は、翌日のカフェイン・糖質過多を控えめにし、早く寝る選択を優先する
睡眠の質を整えることは、慢性痛リスクを下げる「最もコスパの良い自己投資」のひとつです。Wiley Online Library+1
5-3. 翌日の「リカバリー動作」を習慣化する
- 朝起きてすぐに、首〜肩〜胸郭の軽いモビリティ
- 腰椎だけを反らすのではなく、股関節・胸椎を含めた全身の連動エクササイズ
- 長時間座りっぱなしを避け、1時間に1回は立って歩く
アルコール+睡眠不足で「脳のボディマップ(身体地図)」が乱れている状態では、
静的ストレッチだけでなく、「ゆっくりした全身の動き」で感覚を取り戻すことが重要です。
5-4. 痛みをごまかすために飲まない
もし、
- もともと腰痛・肩痛・膝痛があり
- 「その痛みから逃げるためにお酒を選んでいる」
という自覚がある場合は要注意です。
アルコール依存と慢性疼痛は、「痛みから逃れるための飲酒」がきっかけで悪化していくケースが多いことが指摘されています。精神医学オンライン+1
その場合は、
- 痛みの評価(どの動きで、どの部位が、どのくらい痛むのか)
- 姿勢・動作のクセのチェック
- 神経系・感覚統合を含めた動作改善トレーニング
など、「根本原因へのアプローチ」に切り替えることが、結果的にお酒との付き合い方も健全にしていきます。
6. まとめ:12月こそ「脳と痛み」を守る選択を
本記事のポイントを整理します。
- アルコールには一時的な鎮痛効果があるが、効果には限界があり、すぐ耐性もつくPubMed+1
- 慢性的・大量の飲酒は、
- 中枢性感作(痛み増幅システム)
- 神経炎症(ミクログリア活性化・サイトカイン増加)
- 末梢神経障害(ニューロパチー)
を通じて、逆に「痛みの感度を上げる」方向に働くPMC+3Taylor & Francis Online+3MDPI+3
- 睡眠の質低下・姿勢コントロールの乱れが重なることで、
腰痛・肩こり・膝痛などの筋骨格系痛が悪化しやすいPMC+2Wiley Online Library+2 - 「痛みをごまかすためのお酒」は、長期的には痛みと飲酒の悪循環を作りやすい精神医学オンライン+1
12月の飲み会をゼロにする必要はありません。
大切なのは、
- 量とペースを意識する
- 睡眠を最優先する
- 翌日のリカバリーとして「脳と身体を整える動き」を入れる
- 痛みをごまかすためにお酒を使わず、根本に向き合う
というバランスです。
もし、
- 忘年会が続くと必ず腰や肩がつらくなる
- 年明けまで痛みが長引く
- お酒を減らしたいが、ストレスと痛みが怖くて減らせない
と感じている方は、「脳と神経を含めた動作改善トレーニング」で、
痛みシステムそのものを整えていくことが有効です。
そうすることで、
「飲まないとつらい身体」から
「動けば動くほどラクになる身体」
へシフトしていくことができます。
この12月は、お酒だけでなく「脳と身体のコンディショニング」にも一歩投資してみてはいかがでしょうか。

